
丈夫なバラ=育てやすいバラという図式は、バラ栽培に関心を持つ多くの方が漠然と抱くイメージです。
ところが実際には、丈夫さの意味をしっかり理解していないといくら評判のよい品種を選んでも思ったように育たないことがあります。
本当に育てやすいバラとはどういうものなのかを様々な角度から考えてみましょう。
耐病性と樹勢の両方が揃ってこそ本当に丈夫
ここ数年のバラ愛好家の間では「耐病性が高いから丈夫で育てやすい」という言葉がよく聞かれるようになりましたが、バラの丈夫さは耐病性だけでは語れません。
樹勢も大きなポイントであり、両者が揃ってこそ本当に丈夫な品種と言えます。
耐病性とはあくまで葉が病気に強いことを指すもので、樹全体の丈夫さを示すわけではありません。
一方で樹勢とは新しい芽をどんどん出して枝を伸ばす力のことです。
樹勢が強い品種は、たとえ病気にかかっても弱りにくく、葉を落とすほど弱ったとしても回復する力があります。
また、あまり日当たりのよくない庭でも育てやすいものが多いという特徴もあります。
バラが「宿痾(しゅくあ)」とまで呼ばれた理由
バラは日本においてかつて「宿痾(しゅくあ)」つまり持病とまで呼ばれるほど高温多湿な夏に葉に黒い点ができる黒星病にかかりやすいことで知られていました。
葉を落とすと光合成ができなくなり生長が制限され、そのため花が咲きにくくなります。
従来は葉が病気にかかりやすい品種が多かったため、葉をきれいに保つための頻繁な薬剤散布がバラ栽培では奨励されており、毎週あるいは10日に1回という散布が当たり前でした。
耐病性が高い品種ではこの頻度がぐっと下がります。
耐病性が高い品種だと月に1〜2回の薬剤(殺菌剤)散布で済むため、手間がかなり軽減できます。
病気の心配をあまりしなくて済むことが「育てやすい」ということに直結するわけです。
薬剤散布の回数を目安に丈夫さを分類する考え方
バラ専門店の中には、耐病性や樹勢などを総合的に評価して、必要な薬剤散布の回数別に品種をタイプ分類しているところもあります。
無農薬でもほとんど病気が発生しない驚異的な耐病性を持つ品種から、月に3回の定期的な薬剤散布が必要な品種まで段階があり、このタイプの数字はバラが健全に育つために必要な月々の薬剤散布回数と一致しています。
育てやすさを具体的な数字で判断できるこうした指標は、品種選びの際にとても参考になります。
日本の高温多湿に対応できる「耐暑性」も欠かせない
日本のバラ栽培において見落とされがちなのが、耐暑性の問題です。
近年の夏の暑さはバラにとっても厳しく、特に株の近くの地面がアスファルトやコンクリートで覆われていたりすると照り返しにより地面近くの温度は50℃近くにもなります。
ヨーロッパの育種家が開発したバラの中には、本国では問題なく育っていても日本の蒸し暑い夏に対応できない品種が少なくありません。
日本国内でよく栽培されている品種の多くは、こうした夏の暑さや湿気に耐えられる耐暑性も兼ね備えています。
耐暑性と耐寒性の両方が揃っていることで、季節を通じて安定した生育が期待できます。
ノヴァーリスのように本来弱いと思われがちな青系統でありながら、樹勢が強く寒さや病気にも強い品種が存在するのは、こうした複合的な強健性を持ち合わせているからです。
原種に近い系統が持つ生命力
バラ全体から見ると原種に近い系統、つまりオールド系・クライミング系・シュラブ系などが強いとされています。
バラには自然交配で地球上に生きていた野生種もあれば、人工交配と品種改良を重ねられた現代のバラもありますが、近年作られたバラは長い歴史の中での自然淘汰が働いていないため、原種に近いバラの方が強いと言えます。
ただし、これはあくまで傾向の話です。
現代品種の中にも育種家の長年の努力によって驚くほど耐病性と樹勢を兼ね備えた品種が数多く誕生しており、一概に旧系統の方が優れているとは言い切れない状況になっています。
台木の重要性と品種の適合性
丈夫で育てやすいバラの条件として、苗そのものの質も無視できません。
市場に流通しているバラ苗のほとんどは接ぎ木によって生産されており、台木の良し悪しが地上部の生育に直接影響します。
同じ品種の苗でも日本とフランスとでは使われる台木の種類が異なります。
日本の場合、特に梅雨時から夏にかけての高温多湿の時期に耐えられるかどうかが大切なポイントであり、ロサ・ムルティフローラ(ノイバラ)はその条件に合致した台木として使われています。
根がしっかり育たないと地上部も健康には育たないため、台木づくりがバラ苗づくりの基本と言えます。
ADR認証という信頼性の高い指標
品種選びで迷ったときに参考になるのが、各国で行われているバラのコンクールや認証制度です。
その中でも特に信頼性が高いとされているのがドイツのADR認証です。
ADRとはドイツ全土11か所で薬剤散布をせずに3年間試験し、花の美しさ・連続開花性・耐病性・耐寒性など一定の基準に達した品種に与えられる認証です。
審査の基準は年々厳しくなっており、新たな基準に満たなくなった品種は認証を取り下げられることもあるほど厳格なものです。
こうした試験を通過した品種は、実際の栽培現場での強健性が保証されていると言っても過言ではありません。
初めてバラを育てる方やできるだけ農薬を使いたくないと考えている方にとって、ADR認証品種は特に心強い選択肢となります。
四季咲き性と花持ちの良さも「育てやすさ」のひとつ
丈夫さだけでなく、花が長く楽しめるかどうかも育てやすいバラの重要な条件です。
バラには初夏だけに咲く一季咲きのほか、返り咲きや四季咲きの性質を持つ品種も多くあります。
四季咲きは開花後に切り戻すと次に伸びる枝にも花をつけ、初夏から秋まで開花を繰り返すタイプで、季節の植え替えの手間が省けるためローメンテナンス・ローコストとなります。
花が長く楽しめることは、バラを育てる喜びを持続させる上でも大切な要素です。
また、花持ちの良さも育てやすいバラの条件として挙げられます。
花がら切りに追われる手間が少なく、長く花姿を楽しめることは、特に忙しい方にとって大きなメリットとなります。
環境に合った品種選びが最終的な答え
どれだけ優れた品種でも植える環境に合わなければその力を十分に発揮できません。
コンクリートのベランダのような夏は暑く冬は寒く乾燥しやすいバラにとって厳しい環境では、コンパクトな樹形で耐病性があることを条件にし、南向きの日当たりのよい場所には暑さや乾燥に強い品種、日陰の時間が長い場所には耐陰性の強い品種がより適しています。
つまり「育てやすいバラ」とは、耐病性・樹勢・耐暑性・耐寒性といった品種本来の強健さに加えて、その品種が植える人の環境と管理スタイルにどれだけマッチしているかで決まるものです。
カタログや苗のラベルに書かれた特性をきちんと読み解き、自分の庭や栽培環境に照らし合わせて選ぶことが、長くバラを楽しむための確かな第一歩になります。